2013年5月7日火曜日

「脱原発」はもうやめか


あの民主党野田内閣末期の首相官邸前の「原発反対」の大デモの熱気、一体どこに消えてしまったのか。民主党政権が傾いたのはもちろん消費税のこと、社会保障制度のこと、防衛問題などなどがあってのことだった、が、福島原発事故に関連して、これからの原発政策がいまいち明確なところがなかったことに不信感が増大したこともあったはずだ。

それでも、あのデモの熱気、脱原発へ大きな世論のうねりもあって、野田政権も長期的には脱原発に向かうという方向ではあったと理解している。

ところが、ところがである。あの12月の総選挙ではその原発問題など殆ど争点にならなかった。脱原発を最大の争点にしようとした未来の党、共産党、社民党などいずれも敗退した。自民党の本音はもちろん脱原発ではなかったが、あえてそれを争点にしなかったし、する必要もなかった。有権者国民自体が、原発問題などにはもはや殆ど関心を失っていたのである。その結果はご承知の通りである。

福島原発は相変わらずさまざまな問題が起こっているがもはや大した関心を呼ばない。原発が安全に廃炉するにしてもそれに30年、40年掛るというようなやっかいなものなのだ。

安倍首相の今回の外遊、ロシア訪問はたいした成果はを挙げなかったが、トルコで原発輸出第一号の成果を挙げた。そして内外にその成功ぶりをアッピールした。その後の中東諸国への訪問でも原発売り込みを盛んにやってみせたものだ。

その原発売り込みの言い分がいい。日本の原発技術は優れている。それに福島での事故の経験、知見も加わって、問題対処能力にはさらに磨きをかけている。正確でないかもしれないが、そういう趣旨の発言で今回の売り込み成功に胸をはっているのだ。

ええっ? とうなってみる疑っている人は殆どいないらしい。福島原発での事故の問題はすべて本当に解決したのか。一体どんな知見、経験を得たというのか。要するに、今回の結果はむしろ幸運に属することで、ほんのわずかでも事態がずれていたら、もっと深刻な事態になったというのが、その一番の経験ではなかったのか。

さまざまな根本問題、福島原発事故ではとりわけ汚染水処理の問題が深刻でこの問題根本的な解決など何もない。

私が呆れたのは、こうした安倍総理の原発売り込み外交に日本のマスコミが殆どまともな批判を行っていないことだ。それどころでない、5日、6日の社説では読売、産経、日経などはこの安倍内閣のトルコへの原発売り込み成功を評価し、積極的にその意味を支持しているのだ。原発輸出は日本国家のため、経済成長戦略の一環として大いにやれ、と主張しているのである。

うーんとうなりたくなるのは私だけか。あの福島原発事故後の一定期間はもちろんそれにつながるあの大規模な反対デモの間、そんな社説、論説などなどついぞ見かけなかったはずだ。

読売、産経、日経に対し、朝日、毎日などはこの安倍内閣原発輸出振興方針に関し、今のところなんら社説などで、賛成とも、反対ともそのスタンスを明確にしていないようだ。これも不思議なこと。どうしてせめて一紙や二紙くらいまだ福島での事故が完全に収束していない今、他国にその売り込みにかかること自体おかしいという論説を掲げないのかである。

どうもそれはしたくないのだ。今の世論の空気の中でそれをやると冷たい視線を浴びかねないと恐れているのかもしれない。これは完全に皮肉だが、日本の世論もたいしたものだ。

朝日はそれでも6日の一面で、自治体の太陽光発電売電が、電力10社の太陽光発電のそれを上回るようになったという報道をしていた。それは事実関係の報道だけで、そのことのもつ意味、内容をより掘り下げた報道ぶりではなかった。どうして、これと関連して脱原発のためにもこうした太陽光発電を含めた「自然再生エネルギー」を増やすことこそが、経済成長戦略の柱の一つにになるべきだという位の論説を展開しないのか、できないのかである。

いや実はその論説あることはあるのだ。朝日は6日の社説「石炭火力―脱原発と歩み合わせよ」の中で、脱原発を力弱く(?)訴え、そのためには自然エネルギへの転換が必要なのだが、その中間的措置としてCO2を大量に排出するが、石炭火力発電もやむなしという論調なのだ。

いや、こんなところで今さら石炭火力の話が出てくるとは思わなかった。それはそれでいいし、たしかに背に腹は代えられるぬのだ。しかし、どうしてもっと真正面からこの安倍首相の積極的な原発輸出外交を手厳しく批判する論説を掲げないのかである。

実はその社説の中で、この安倍外交のことにはなんら一言も触れていないのだ。情けない話ではないか。原発より日本が積極的に売り込むべきは太陽光発電を含めた「自然再生エネルギー」技術であり、地球環境対策技術であるというのことではないのか。

もっと情けない、疑問に感じるのは、この脱原発、夏の参議院選挙の争点の一つになるどころか、安倍内閣経済外交の成果として使われることになることだ。

tad

関係記事:

トルコ原発受注 官民でインフラ輸出の加速を(社説):yomiuri 
新興国への原発輸出が問う日本の役割(社説):nikkei 
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